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2008年4月 2日 (水)

一人桜

滋賀県の南郷から宇治川に走る山道がある。人っ子一人通らず、車に遭遇することも滅多にない。山肌をペンで引っかいたような道だが幅員は存外に広く、それが唯一往時をしのばせる。源義経や足利尊氏が京に攻め上る際に軍勢を率いた道だ。現代では体育会系ドライバーの格好のハンドリングコースである。

ブレーキングでオーバーステアを誘い、脱出加速のアンダーステアで相殺する・・・FFベースの4WDでこの走りをするのが私のやり方。まなじりを決して死に物狂いの攻めをするより安心安全、かつ速い。

そんな調子でブラインドの右コーナーをクリアすると、はっと息を呑む光景が待っている。それはそれは美しくも華麗なしだれ桜の一本だ。

一人桜 ・ ・ ・ 私は勝手にそう呼んでいる。

「天下一の銘木」と言われる山城地蔵院のしだれ桜もそこからそう遠くはないし、その親戚である京都円山公園のしだれ桜も名高い。確かに、その存在感は圧倒的で荘厳ですらある。でも、この季節になって、私が真っ先に思い浮かべるのは、この「一人桜」。

その姿を愛でる花見客はおろか、通行人の一人とてない。ひっそりと、しかし、気高く立っている。何の気負いもなく、目立とうとも賞賛を浴びようともしない。何故こんなところに?などと野暮は聞くまい。いたいからいる。咲きたいから咲いている。それだけだ。

人も同じだ ・ ・ ・ と、私は思う。

認められたいから、褒めて欲しいから生きているわけじゃない。大それた野心などなくていい。名もなき庶民で何の不足があるものか。

コーナーの彼方に姿を消す「一人桜」を心に感じながらアクセルを踏む。が、タービンが高周波音を奏で始めた時、ふと右足を緩めた。

「そんなに急いで何処へ行く」

「一人桜」の呟きが聞こえた気がした。

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コメント

「一人桜」・・・・素敵ですねぇ。もう散ってしまったんでしょうか?場所を詳しく教えてください。

投稿: ウラン母 | 2008年4月10日 (木) 23:01

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